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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)681号 判決 1969年10月21日

上告人 金仁錫

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人代理人岡部勇二の上告理由について。

民事訴訟用印紙法所定の基準による印紙の納付義務は、司法手数料の性質上、これを納付すべき申立と同時に確定的に生ずるものと解すべきである。そして、上告人が別件訴訟において第一審裁判所に提出した答弁書および証拠の申出書は、口頭弁論終結後その再開申立とともに提出されたものであるが、それぞれ、所定の印紙が貼用されていたのであり、しかも、それは、原判決の説示するような意味目的を具有し利益のあるものなのであるから、上告人の右行為は、弁論再開の決定がされることを予定しつつ、すでに確定的に裁判所の一定の行為を求めているものと解される。そうとすれば、右行為は、なお申立であるとみるのが相当で、上告人は申立と同時に印紙の納付義務を負うものと解すべきである。また、所論の七は、第一審裁判所で貼用した所論印紙が未使用であるとの前提においてすでに失当であるから、理由がない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見地に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美 関根小郷)

上告理由

上告代理人岡部勇二の上告理由

原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があるから、原判決は破棄され、上告人の本件請求は認容されなければならない。

一、原審は司法手数料の意味、内容を全く理解していない。

しかして、第一審の判断は誠に適法且つ正当である。

手数料とは、裁判所が国民に対し役務を提供することに対する報償として徴収する料金である。

従つて、役務の提供のないところに報償はない。

ところが、別件裁判所は、役務の提供なくして本件手数料を徴収したのであるから、右は国の不当利得となつたものであることは明白である。

二、本件訴は、上告代理人がわが国の裁判事務を適法化、能率化及び近代化し、もつて、これを改善するため提起したものであるところ、第一審は、これを正当に認めたが、控訴審は、牽強附会のへ理屈をもつて、これを棄却したのである。

三、そもそも、わが国の裁判官は、行政法を識らず、もちろん行政の経験もないのであるが、憲法が行政裁判を司法裁判所の権限としたために、従来の裁判所は止むなく識つたような顔をして違法且つでたらめな裁判をしてきたのである。

そこで、上告代理人は、司法手数料に関する数多の訴を提起して、かかる裁判官を啓蒙し、もつて、「国民から見放された民事裁判所の信用」を回復しようと企図したのであるが、その道は、誠に遠いものである。

四、わが国の裁判官で、手数料につき、どうやら研究した者は鈴木忠一判事ただ一人である。

しかしながら、右判事は行政に対する学識経験がないのであるから、誤解したものを発表しているのも当然のことである。

原審の判断及び国の主張は右鈴木判事に追従するだけのものである。

従来のように行政裁判につき、違法且つでたらめな裁判をしていたならば、司法の権威は益々失墜するものである。

裁判所は、自分たちが実践してきた従来の違法な職務の執行をなんとかして適法化しようとしているが、国民はかかる愚かな裁判所を冷笑しているのである。

五、原判決は「手数料納付義務は、その申立、申出等に対し、現実に裁判所が応答するか否かにかかわりなく、申立、申出と同時に発生する」と判断しているが、弁論再開の申出、口頭弁論期日の延期、続行の申立の却下のときに手数料をとつたことがあるのだろうか?。

六、裁判所は、今までの慣行に従つて、本件のような弁論再開の申立の際の申立につき手数料を徴収しており、原判決はこれを適法であると判断しているが、右は誤りであつて、このような申立に対しては弁論を再開したときに取つても遅くはないのである。

従来の裁判所は、大審院判例に盲従して、本件のような場合、答弁書及び証拠申出書に印紙の貼用がなければ、それのみで、右申立は無効であるから弁論を再開する必要がないと違法な判断をして、その再開申立を却下しているので、国民は止むなく、印紙を貼用して提出しているのである。

裁判所が、弁論再開申立における答弁書及び証拠申出書の提出は職権発動を促す参考資料に過ぎないものであることを認識すれば、国民は貼らないで済むことである。

七、また、一審で使用しなかつた手数料を控訴審の手数料に充当することができるのは当然のことである。

控訴審で証拠申出書を改めて提出せしめることと、一審で末使用の手数料を控訴審の申出書に流用することとは異つた事務処理であるから、異つた法令理論に従うのは当然のことである。

本件のような場合の事務処理としては、裁判所書記官が申出書の余白に「本件手数料は第一審記録〇〇丁の末使用印紙一〇〇円をもつて充当する。」と表示しておけば、必要にして十分なのである。

従来の裁判所は右のような事務処理の方法を全く識らないのである。

八、そもそもわが国の裁判所は、末使用手数料の返還方法を制度として持つていないのである。

返還制度があつて返還しないのならよいが、返還方法がないから返還しないということは誠に許されないところである。

司法手数料の徴収及び返還についてのわが国裁判所の事務処理は、わが国の裁判官の法律的、社会的及び経済的知識の欠如を如実に示すものである。

最高裁判所裁判官殿、どうぞ、違法且つでたらめな裁判をなしてその汚名を後世に残すことのないようにくれぐれもお願いいたします。

以上

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